全国研究集会分科会報告

 

69回新医協全国研究集会 薬学関連領域分科会

2016年11月 日

於:林野会館

 

「薬は誰のもの?」

薬をめぐって、高薬価の問題や、多剤処方、残薬問題、週刊誌情報等、社会的話題に事欠かない中、信頼できる情報の提供や、薬の適切な使用をすすめるために、「薬は誰のもの?」という視点から討議を深めた。

 

  1. 薬をとりまく情勢

 

保険財政を急激に圧迫するとして話題を呼んでいる超高薬価薬の出現をはじめ、不透明な薬価制度の問題について、協立医師協同組合の高田満雄薬剤師が報告。医療費高騰の主要な原因が新薬の高薬価と市場のマーケティングによる処方の新薬シフトにあることを報告した。医薬品の選択・使用が事実上メーカーに支配されている現状が議論になった。

 

2.訪問診療の現場から

 

沖山明彦医師からは、高層住宅に住む高齢者中心の40余名の訪問診療を通じ、多数の疾患を併発し、多科の医師のもとで多剤処方を余儀なくされている実状が報告され、関係職種間での連携による対応の必要性が示された。

 

3.訪問看護の現場から

 

訪問看護ステーションに勤務する竹村看護師からは、在宅における服薬管理の問題点が報告された。処方薬を確実に服用してもらうことが在宅療養を継続する鍵であり、様々な困難をかかえる患者さんの服薬サポートに苦労している実状が紹介され、薬の作用や飲み方も理解できない患者さんに対する納得の医療とは何だろうとの疑問が投げかけられた。

 

4.薬局でのポリファーマシーの実情

 

木内知子薬剤師からは、健忘が強い患者さんへの多数の診療科による多剤併用例への対応、朝食後の薬だけで17種類の薬が処方されている多剤処方の事例等が紹介され、このようなポリファーマシーの実態にどのように対応したらよいかと問いかけた。

 

5.薬のエビデンスをめぐって

 

医薬政策を研究する寺岡章雄さんは、「エビデンスが得られた」とトピックス報道される根拠の曖昧さについて、糖尿病治療薬「ビクトーザ注」とSGLT2阻害剤の臨床試験結果を示し、今こそ薬剤師は本来の職務である医薬品評価・医薬品情報活動への取り組みを強めるべきではないだろうかと投げかけた。

 

6.中耳炎を繰り返した一例の薬歴を通じて

 

保育園の理事を務める橋本紀代子薬剤師は、中耳炎を繰り返し、薬漬け、抗生物質漬けに至っている小児の事例を通じ、食事や薬による「リーキーガット(腸の透過性亢進)」の促進に触れ、安心、安全な食物の提供、食生活の見直しなど、子供たちの成長や発達を保証するために大人がすべきことを問いかけた。

 

7.暴力を伴う知的障碍者への処方設計経験から

 

精神科を専門とする石田 悟薬剤師は、処方設計に関わった知的障碍者2例を紹介し、易怒、興奮などの問題行動に対する治療の考え方、薬物治療のみならず、患者を理解すること、声かけをはじめとする関わりの重要さを示し、「処方の見直しは引き算から」とアドバイスされた。

 

以上、多科受診により多剤処方をやむなくされている等、薬が患者のものになっていない現状がそれぞれの立場から報告され、薬剤師こそが、医師と患者の仲介の立場にあり、患者が主張できるよう医師への橋渡しをする、手先の方法の前に、患者の人権、患者の権利という根本に立ち返って「このような多剤を続けてよいのか」と問いかける姿勢や、患者・家族を中心にしたカンファレンスの必要性、「命に関わる重要な薬はどれか?」という視点から処方の見直しを主治医に迫る必要がある等、貴重な論議が行われた。  

 

厚生労働省は、「健康サポート薬局」や「かかりつけ薬剤師」を制度化したが、薬剤師自らが、「健康とは?薬とは?」との根本的な問いかけをもとに、住民や患者の立場に立って基本姿勢や技術のあり方を具体的に示す必要があることを確認した。